2009年09月27日

小川一水 『天冥の標 I メニー・メニー・シープ』

2010年代のSFは ここから始まる
「それもできれば、領主に訊きたいことのひとつだ」
「なぜ地震が増えたのかって?」
「いや、質問はこうだな。あなたがハーブCだとしてきたこの世界は、本当はどんな姿をしているのですか、と」
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)


入植300周年を迎えようとしている植民星メニー・メニー・シープ
化石燃料のないこの星でライフラインとなる電力を代々おさえている臨時総督・・・通称「領主」は、ここ数年配電制限を行い、植民地の生活を圧迫していた。
そんななか、反骨精神の強い<海の一統(アンチョークス)>の都市セナーセーでは、謎の疫病が流行りはじめる・・・


文頭に記したオビを裏切らない、そしてあとがきにあるように「ちょ、おいィ!?」を連発させられそうになる作品でした。全10巻予定の第一作目。
上に書いたあらすじも、ほんのさわりに過ぎません。
まずは明るい日差しと海風の通るさわやかなセナーセー市で、陽気で勇敢な<海の一統>という魅力的な一族を代表するような跡取り息子アクリラと、そこの住民で医師のセアキ・カドムの側からお話の中にすーっと引き込まれます。
そして謎の疫病や正体不明の知的生物・イサリとの出会いから始まるカドムとアクリラの物語、形骸化した議会に籍を置き、議員としてのアイデンティティを確立できずに煩悶する女性議員エランカと、彼女と縁を結ぶ<恋人たち>と呼ばれるアンドロイドたちの物語、軍警から奴隷のようにこき使われている<石兵>のなかで自我に目覚めはじめるクレヴの物語・・・
それらが渾然一体となって、「傲慢な領主と反抗する市民たち」という構図を作り話が展開していくのかと思いきや、中盤あたりから、その構図自体があやしくなってくる。
それでも一度動き始めた歯車は止まらず、登場人物の誰にも(当の領主ユレイン三世だけは予測して恐れていたようですが)予測できなかった変化が襲ってくるまでが、この第一巻です。

魅力的な人物は盛りだくさんなのですが、<海の一統>の長であるキャスラン・アウレーリア「頼んだよ。メニー・メニー・シープのこの先を」という台詞には、やられました。
自分は自分で為すべきことを為そうとして、決して諦めもせず、けれどその一方で新しい芽にもしっかりと未来を手渡そうとする大人って、恰好いいですよね。

愛があり、謎があり、熱があり、信念と迷いがあり、長く続き隠されてきた過去と、未だ知られぬ未来がある物語。
ものすっっっごく、続きが気になります!

以下、ネタばれ
アクリラとカドムは本当に死んじゃったんでしょうか? ダダーも気にしていたし、実は助かっていたりしないだろうか。
でもこれだけの巨編だとあっさり重要人物も死にそうな気もします・・・その辺『氷と炎の歌』とも通じるなぁ、こちらの方がもうちょっとすらっと読みやすいけれど。ああ、それで言うとキャスラン・アウレーリアはエダード・スターク公ですね。

この植民星は実はそもそも星じゃなくてシェパード号の中か上だろうとも思えるし、でもそうするとシェパード号はわざわざドロテア号を積んできたのかとか、地球からやってきたらしい二人の存在も今度どう関わってくるか気になるし、ラゴス達がどこに行ったのかとか、今後エランカとの再会はあるのかとか、<咀嚼者>とは一体何なのかとか、気になることが盛りだくさんでした。
ラベル:小川一水
posted by 高 at 14:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 邦人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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