2009年06月08日

辻村深月 『凍りのくじら』

ドラえもんの道具が、私たちを照らすとき――
『あなたの描く光はどうしてそんなに強く美しいんでしょう』
『暗い海の底や、遥か空の彼方の宇宙を照らす必要があるから。そう答えることにしています』
そして、その光を私は浴びたことがある。声に出さず、心の中で付け加える。
誰も信じないかもしれないが、もう何年も昔、私はそれに照らしてもらったことがあるのだ。

凍りのくじら
辻村 深月
講談社 ( 2008-11-14 )
ISBN: 9784062762007
おすすめ度:アマゾンおすすめ度


「少し・不在」な女子高生・理帆子のお話。
どこにでも溶け込める、でもいつでもどこか覚めている彼女は、5年前に失踪した父親の影響から、ドラえもんに絡めて「少し・ナントカ」で人の個性を見る習慣を持っている。
「ドラえもん」が大好きで、著名な写真家でもあり、自分の余命が幾ばくもないと知って失踪した、大好きだった父親。その数年後に発病して入院中の「少し・不幸」な母親
家でたった一人で生活している理帆子は、「少し・フラット」な先輩・別所から写真のモデルを頼まれてから、少しずつ自分の内面を語り、覗き込んでいく。
けれど同時に、「少し・腐敗」だった元彼・若尾はしつこく理帆子につきまとい、その腐敗の度も以前の比ではなくなっていき、また母の病も深刻になっていくのだが・・・


おもしろかった!!
辻村作品も4作目なので著者お得意の叙述トリックにも慣れ、そこにはそれ程驚きもしませんでしたが、そんなのはおまけで、今回は理帆子の精神のありかたと、その揺れが、とっても丁寧に描かれていて共感できました。
本が大好きなところとか、色々自分が共感しやすいところがあったのも理由の一つでしょうが、それ以外にも、ドラえもんの道具で色々な人や自分の傾向を説明するところが分かりやすく興味深かったし、何よりそこで改めて認識されるドラえもんの世界のやさしさに、じんわりきました。
そう、私も理帆子ほどではないけれど「ドラえもん」好きです。欲しいものは?と聞かれたら「どこでもドア」と答えるくらいには。
だから今作は、ミステリというよりは、ミステリ風味(いやむしろドラえもん風味)の理帆子の成長ものであり青春小説です。
現実を見つめ、自分の傲慢さも冷淡さも孤独も甘えも自覚しながらどうにもできずにきた理帆子が、怯え、逃げ、けれど少しずつ大切な人を見つめ、人に助けられ、ここに「生きている自分」を見つけていくまでの物語。

これまでに読んだ辻村作品の中では、これがダントツで好きですね。一番自然な仕上がりになっていた気がします。そして一番自然に楽しめました。あと途中涙が止まらない箇所も。家で読んでいてよかった。
ドラえもんの長編映画も見たくなっちゃったなぁ・・・。
タグ:辻村深月
posted by 高 at 22:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 邦人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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