2009年05月17日

貴志祐介 『新世界より』

この手記は、千年後の同胞にあてた長い手紙である
「あんたは、誰? いったい何なの?」
「わたしは、国立国会図書館つくば館です」
「図書館?」
「機種および型番をお尋ねでしたら、Panasonic自走型アーカイブ・自律進化バージョンSE-778Hλです」

新世界より 上
新世界より 下


科学文明崩壊の千年後、呪力と呼ばれる超能力を手にした人類は、牧歌的な暮らしを謳歌しているかのように見えた。
しかし夏季キャンプで偶然にも、摘発から逃れるために進化した自走式図書館ミノシロモドキを捕獲した子どもたちは、そのミノシロモドキから、自分たちからは隠されていた人類の血塗られた歴史と、現在も自分たちを取り巻く恐怖について知ってしまう。
悪鬼業魔についての伝説、誰にも意識されぬまま消えていく子どもたち、人間たちに使役される知的生物バケネズミ...何も知らずに育った子どもたちを、悪夢が襲う!


電力の使用は著しく制限され、呪力が全てにおいてものをいうようになった千年後の世界です。「八丁標」と呼ばれるしめ縄(?)を越えて町の外に出ると、奇妙な進化を遂げた生物が跋扈する世界。でも「八丁標」の中は呪力で守られているから、人間に危害を加えるようなものは何一つ存在しない・・・蚊ですら入ってこれないtてすごいよね。
そんな小さなコミュニティの中で、一見のどかに、実は厳重に管理されて育った子どもたちが、自分たちを取り巻く世界の現実を知り、右往左往する間もなく、次々に起きる事態の変化に翻弄されていく。
大人になった早季の手記というかたちで展開されるお話なのですが、回想録のようになっているので感情移入しやすかったです。また早紀が生き延びていることは設定からも分かるものの、それ以外の彼女の仲間たちがどうなるのかは読み進めてみないことには分からず、一気呵成の勢いで読んでしまいました。
呪力も含めすべてにおいて平凡だけれども精神的な安定度(おそらくアイデンティティの安定度を指しているんだと思う)の高い早紀、早紀の親友である赤毛の美少女・真理亜、真理亜に恋する少年・、口から生まれてきたかのように出まかせ上手で楽天家の、仲間たちのリーダー的存在で、呪力も思考力も抜きん出ている少年・
この5人の子どもたちに感情移入しながら、次々に出てくる興味深い生物や現象・伝説などの謎が明かされる部分にも興奮します。
さらに後半は、人類が何千年にもわたって繰り返してきた血塗られた歴史から逃れ、新たな秩序を確立するにはどうしたらいいのか?という究極の問が浮かび上がってきます。それに対する答えとしてある現在の町の姿の矛盾点、その陰にあるバケネズミの存在などもあり、色々考えたりも。
なんとなく恩田陸さんや新井素子さんを連想もしました。

それにしても読みやすかったです。かなり色々な素材がてんこ盛りなのですが、エンターテイメント性を失わず、小難しくはなっていない。この読みやすさ、読ませる力はなかなかのものだと思います。
さらに千年後の未来、早紀の手記を読む人間がいるのか、その人間はどんな世界を生きているのか・・・つい想像したくなってしまう余韻がありました。
タグ:貴志祐介
posted by 高 at 22:59| Comment(4) | TrackBack(0) | 邦人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
『新世界より』私も読みましたよー。
上下巻ともに分厚いですが、全然飽きがきませんでした。

読み進めていくうちに呪力とはなにか?などの理由がわかり始めますが、『黒い家』や『ISORA』を描いた貴志さんらしくそのトンデモ設定にちゃんと理由付けをしているので好感が持てました。
ただ、アロハシャツという単語があるのに、ブラジャーが胸当てと表記させられていたのは「???」でしたが。
それにしても貴志さんの作品は、女性が強いですよね。早希しかり。ぎりぎりのところで踏ん張って、そこから盛り返してく強さは見習いたいものです。
Posted by たま at 2009年05月26日 00:27
たまさん、こんばんはー。
ホント分厚さが気にならない面白さでしたよね。貴志さんの作品は初読で、ほかの作品は名前くらいしか知らないのですが、普段はミステリを書かれる方なのでしょうか。
>アロハシャツなのに胸当て
スルーしてましたが、言われてみると確かに変ですねー。シャツは存在するけど、ブラジャーは既に存在しなくて「胸当て」でしかないとか? それも変だな・・・。
他の作品も機会があったら読んでみたいです。お勧めとかありますか?
Posted by 高 at 2009年05月26日 19:49
こんばんは。
>アロハシャツに胸当て
なんとなく引っかかってるんですよね。
もしかしたら筆者の校正ミスかも。

>おすすめ
そうですねえ。
『青の炎』に『黒い家』、『十三番目の人格――ISORA』に『クリムゾンの迷宮』などがお勧めかと。大体がホラーです。『クリムゾンの迷宮』は学生時代に読んだのですが、目を瞑ると文章の一節がリフレインして眠れなくなるほど怖かったです。
Posted by たま at 2009年05月26日 23:37
ふむふむ、「黒い家」に「ISORA」、「青の炎」に「クリムゾンの迷宮」ですね。
amazonで検索してみると、どれも面白そう!
「クリムゾンの迷宮」とか「黒い家」あたりを今度探してみます。
本格ミステリよりはホラーの方がなじみやすいのですが、あんまり怖すぎて夜中に思い出してブルブルしちゃったりするのは嫌だなぁ・・・(^^;
Posted by 高 at 2009年05月28日 20:53
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