2008年11月02日

妹尾ゆふ子 『翼の帰る処 上』

過去を見る力は、神の恩寵なのか、呪いなのか――
「そなたの」
ヤエトの言葉を遮った声は、おそろしく低い。
ゆっくりと、皇女はくり返した。
「そなたの、望みはなんだ」
「隠居です」

翼の帰る処 上
妹尾 ゆふ子
幻冬舎コミックス ( 2008-10 )
ISBN: 9784344814660


熾烈な権力争いから逃れるために砂漠を横断してきた皇弟によって十六年前に建国された真帝国の北端、別名放置区とも呼ばれる北嶺。そこに左遷人事で赴任してきた文官ヤエトの望みは、安楽に平和に隠居することだった。
しかし何故かそこに北嶺の太守としてやってきた皇女の副官として取り上げられ、希望とはほど遠い多忙な日々を送る破目に陥ってしまう。
北嶺に皇女を送りこんできた皇帝の意図も、過去に埋もれてしまった北嶺の謎も分からぬまま、更にはヤエトが祖先から受け継いだ恩寵の力が暴れ出し・・・


面白かった!
隠居を夢みる青年が、生真面目な性格と不器用さから希望に近づくどころか、どんどん遠ざかってどつぼに嵌まっていく様子や心中でついている悪態と、そんな彼を慕ってくる北嶺の素朴な人たちや皇女や騎士団の面々・・・どの人も皆いい味を出していて、読んでいて飽きませんでした。いやー、宴の最中に人気のないところに行きたいと言ったヤエトに、「壁を登ろう」と提案するセルク(北嶺の人)には笑わせてもらいましたよ。お馬鹿万歳。

むかーし昔に神様と人間が契約することで与えられた様々な力(一種の超能力)は恩寵と呼ばれ、真帝国の皇族たちは居ながらにして意思を伝え合う力を持っています。一方ヤエトは、真帝国の母体となる砂漠の向こうの帝国に数百年前呑み込まれた古王国の末裔なのですが、もうとうに失われたと思われていた一族の恩寵−過去を覗き見る力を発現させてしまっています。けれどその力は、制御法も分からず、徒にヤエトの体力を奪い取り、人に知られてはどう利用されるかも分からないという代物で、厄介以外の何物でもない。
それから北嶺の人々にも、何やら自覚のない恩寵の力があるのではないかというような謎も持ち上がってきたり、皇女にも暗殺の危険がほのめかされたりしていて。

そうそう、後半まで読んで気づいたのですが、これって『風の名前』や『魔法の庭』、<夢語りの詩>と同じ世界のお話だったんですね!
時代がずいぶん先に進んでいるし、まったく予想していなかったのでビックリしました。そう考えると、この北嶺に過去存在したという「化鳥の騎士団」のお話は『竜の哭く谷』だし、セルクが幼い頃に会ったという詩人は →アストラ← の事だろうし(元気だな、この人)、邪竜の伝説はあれで、南方や北方の伝説はあれで・・・と色々つながって、とっても楽しめました。できれば読み返してあれこれ確認したいところですが、生憎実家に置いてあるんだよな。図書館で借りようかと検索してみれば、蔵書にないし・・・ガックリ。
お話そのものは完全に独立しているので、これらのお話を知らなくても、全く問題なく楽しめます。
今現在をひたむきに生きている人たちの姿と、ヤエトが覗き見る過去から連なる歴史が交錯して、なんとも魅力的なお話になっていました。続きが早く読みたい。
タグ:妹尾ゆふ子
posted by 高 at 20:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 邦人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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